野球スコアブックアプリ誕生秘話 第8話「東日本大震災への想い」

2011年3月3日にクラウドプロダクション設立。

翌週の3月11日に三軒茶屋の社長とのアポイント。東日本大震災…。

当然、野球スコアブックアプリの話は流れた。

 

話が流れる直前までは、自分の思考、自分達の成功、綿密なシミュレーション、市場の攻め方を考える事でビジョンが研ぎ澄まされている状態だった。こういうのを、「ゾーン」とか「トランス状態」「脳内麻薬が出てる」と言うのだるうか?

 

この状態で仕事がストップしてしまった事はかなりショックだったが、もっとショックだったのが、

あの被害と、津波に飲み込まれるあの映像…。これが、全てを吸収してやるという状態=ゾーンの状態で入ってきた。

 

しかしそんな事を言っている場合ではなく、日本中が地震により、ただならぬ重い雰囲気に覆われていた。

自分の内側に向いていたアンテナが急に恥ずかしく、被災地で困っている方々を目の当たりにして不謹慎、不誠実な気がしたし、無力である事を感じた。

私のベンチャー意欲が一瞬寸断した。

 

あのアポの直後、Hは、野球スコアブックアプリの案件が暗礁に乗り上げたにも関わらず絶えず共にいた。

共にいた…という表現はある意味正しくない。

それぞれ一人で自宅にいる時も「常につながっていた」が正解だ。会社設立当初は事務所もないので、私の自宅で私の彼女(現在の妻)も含めた三人でいるか、もしくは私が一人ないし彼女と二人きりの際でも常にHとSkypeで繋げながら仕事するか、という謎の常時接続状態が始まった。

 

その後、福島原発も爆発して、建屋が吹き飛び、東京近郊にも放射線の被害に見舞われそうになった時…

余りに多くのまことしやかの情報が飛び交う中、「一旦故郷の宮崎に帰ろうか?」という考えが頭をよぎったが、それを止めてくれたのもHだった。

彼と会社を作ったのだから、というのも有ったのかもしれない。

ITの事業はどこにいたってできる、ならこの機会に故郷へ帰ろうとするのも割りと自然だったかと思うが、今思えばその判断をしなくて本当に良かった。この震災直後の時間が今の私を作る大事な時間だったからだ。

 

しかし、その当時の私はとにかく情緒不安定だった。

それは、地震の影響によるものもあり、福島や岩手などの映像を見ては、涙を流し、

事業を継続していけるか?そもそもベースを作ろうという時に日本という国が揺らいでいる、そんな不安とも戦っていた。

そんな不安定な私に、いつもと変わらないトーンで、淡々と仕事をこなし冷静な情報のみを私と議論してくれたのがHだった。

 

当時、地震による世の中の影響は図り知れないほど大きかった。

事業が立ち行かなくなるのではないか?(父親と同じ末路を辿るのではないか?)

毎日眩暈がするほどの恐怖と戦っていた。

 

自分が考えてきた事は間違っていたのだろうか?

それどころか、野球の利便性を追求している場合なのか? という気持ちと

無知な自分への恥ずかしい思い、誰の役にもたてない悔しさ

それでも持ち金を全て投資して、自分が立ち上げた会社で収益を上げていかなければならない…という狭間で、自分に出来る事と言えば、被災地の皆さまの力になれるよう、手元の小銭をかき集めて精一杯の募金をしながら、祈り、過ごす…。これぐらいの事しか出来なかった。

 

この時に、知らないといけない情報は世の中に沢山あるが、全ての悲劇を受け止める事はできないし、知ったからには行動を考えたくなるのが、人の性だ。

そして、人間、個々にできる裁量を強制される必要はない、情報の入手の方法や量も自分で決めて良い事にも気付き、情報入手先の重要性に改めて考えさせられた。

 

一週間ほどじっとTVを眺め、結果、我が家からTVを捨て、2016年現在に至るまで私の自宅にはTVが存在していない。

 

TVが無いと詳細に分からない事も沢山ある。しかし考えた結果、

しばらく自分に必要なのは、自分にしか出来ない生き方、以前社長が私に話して下さった「世の中を明るく照らす」事だと悟った。

そのために必要な事だけできれば、良い。

俺のやる気まで迄自粛して誰の得になるんだ! と。

地震の前の心の状態。研ぎ澄まされた探求の続きに戻る必要がある。そう判断した故に、TVという情報源を遮断した。パソコンで仕事をしていると、どうしても入ってきてしまうSNSやニュースサイトからの情報も、そもそもブラウザを調査以外で開かない、開く時間を決めるなど、業務ルールを自ら決めた。

 

そして…月日は流れ…。

あのアポイントから約1ヵ月後、三軒茶屋の社長から連絡がくる。

それは、冷蔵庫に食料を詰め込んでくれた「あれがあって、本当に助かった」というお礼と、発注(資金投資)の話であった。

 

アプリ開発の止まっていた時間が、再び動き出した。

〈この続きは明日以降また。〉

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